第36回 波瀾万丈な猫の一生「荒野にネコは生きぬいて」
梅雨が明けた地方の皆さんも、
まさに梅雨空の下の皆さんも、
お元気にしてますか。
今回のえりかのコラムは
「荒野にネコは生きぬいて」の
ご紹介。ごゆっくりご覧下さい。
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お話は、主役の子猫が荒野に
捨てられるところから始まります。
生後12週間目の子猫は、
これを何かの遊びと思い
ここまで乗ってきた車の後を、
無邪気に追いかけます。
けれど、それが遊びではなく、
自分がひとりぼっちになってしまったことに
気が付くのに、時間はかかりませんでした。
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こうして、生後12週間で荒野に捨てられた
子猫は、この、荒々しく厳しい荒野を
生き抜かざるをえなくなったのです。
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こういうコラムを書いているからには、
いろいろな猫本を読んできましたが、
「ハラハラ」とか「どきどき」とか、
そういう面でこの本は、今のとこNo1。
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とにかく、この子猫(名前は最後まで無し)に
作者のG.Dグリフィスさんは、いろいろな
試練を与えまくり、この子猫の生涯を
波瀾万丈な一生に仕立て上げます。
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日本人には、馴染みの無い荒野。
様々な動物が茂みに隠れ、冬は寒さ厳しく、
夏はうだる様な暑さが続く荒野。
この本には、「名詞」が多く登場します。
例えば、植物。「ワタスゲ」や「ヒース」、
「ハリエニシダ」、「ハシバミ」など、
ただ雑草や木、等と表記すればいいところでも、
きちんと名詞で書かれています。
それに加えて、天候の描写も巧いので、
多用される名詞と相まって、いやがおうにも
臨場感はばっちり。日本人には馴染みの少ない荒野が
舞台のこの物語ですが、子猫の受難を我が事の様に
感じるのは、この臨場感があってこそ。
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何人もの人間と出会い、裏切られたり
優しくされたりの繰り返し。
裏切るのは、何も人間だけではありません。
自然にも、裏切られもみくちゃにされます。
雄大な自然の成す業に、子猫は何度も命の危機を
経験し、そしてそれを乗り越えようとするのです。
だからこそ、幸せな部分も際立ちます。
この子猫はメスで、物語の中では
メスならではの幸せも描かれます。
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純粋に面白いですよ。
ハラハラしっぱなし、どきどきしっぱなしです。
猫好きであれば、全ての猫の幸せを願わずには
いられませんが、その気持ちが強ければ強い程、
この物語をいろんな意味で楽しむことができるでしょう。
猫のものには珍しい、汗くさく、骨太な物語です。
精神的にも、肉体的にも残酷なシーンだって
目に付きます。野生で生きるからには、
目を背けて通ることは許されません。
ふわふわしあわせ物語がお好きな方には
おすすめできない一冊です。
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次回は7月8日更新予定!次回も是非見てくださいね!